あら嫌だ。
そこら辺のやり手婆と一緒にしないで欲しいねェ。
[喉を鳴らして笑う反面、ようやく相手が瞽女であることに気が付いたらしく『ほう』と声を漏らし。『どんな年増だと思われていたのかねェ』と皮肉気味に続けて。]
――だったら、盗んでやりゃァいいさ。
アンタの欲しいもンを全部さァ。
[彼女の頬に触れた掌でその輪郭をなぞり、囁かな言葉遊びを。相手の言葉の意味を知ってか知らずか言外に『それなら盗みたいと思えるものを作ったらいいじゃないか』と意を含ませながら。
この場を切り上げようとする彼女からするりと手を引き――。尋ねられたのなら短く“おもん”と江戸ではそれなりに通った名を告げただろう。
そうして遠目に彼女がこの場を去る準備が出来たようであれば、]
今度は是非、アンタの三味線の音を聞かせておくれよ。
楽しみにしているからさァ。
[後れ毛を掻き上げそう告げて。『またねェ』とひらりひらりと手を振ってからその場を後にする。**]
(85) 2015/01/19(Mon) 01時頃