[只、強いて言うのならば……掌なんて生易しいものなんかじゃない、が。其れはきっと掌なんかよりも広い何か。江戸中の金を巻き上げようと広げた広い広い風呂敷。
――きっと其れは目の前の女には伝わるわけがないだろう。長い長い、気の遠くなるような刻を遊郭で過ごした人間にしか分からない話。
だから、ふ、と口を閉ざして目を細める。そう。これでいい。
彼女>>73の内心なんぞ察することは叶わずに、去り行く背中に投げ掛けられた言葉>>57を耳に眉を吊り上げ。]
“籠の鳥”なんて、アンタら余処の奴らが勝手に憐れんでいるだけなのに、さァ。
そもそも籠の鳥が不幸だなんて言い方をしちゃいけないと思うさねェ、
アレはアレで幸せに生きているに違いねェよ。
[何処か遠く、女の背中よりも先を見ては吐息と共に吐き出した言葉はずしり、と重く。誰に言うでも、何を伝えるでもなく、虚しく響いては消えて。
最後には『…金の話じゃないっての。』と女の言葉の響き、目を伏せ聞こえない振りを。遊女に対する偏見の目は未だ多い。
――其れはあまりにも切ないこと。貧乏人の僻みは醜い醜い。]
(84) 2015/01/19(Mon) 01時頃