…僕、…わ、わたしはマユミ。
苗字はいる?いらないわよね。要らないわ。
――だって御伽噺には名前があれば充分だから!
チェシャ猫さんは、ヤニクって云うの。ふーん。
ねえチェシャ猫さん、とろけるほどに、あまあいお菓子も、小屋の形をしたお菓子も、毒を含んだ林檎も、私は要らない。要らないわ。
泉の向こうへの渡り船、まだ早いわ。はやすぎる。
キレイなお花は好きだけど、私に似合う花も見つからないの。
ねえチェシャ猫さん、チェシャ猫さん。
愉しいことがあったなら、私に教えて、約束ね。
[返しの言葉は同じく矢継ぎ早に。名前を聞けども受け入れず。ただ自分が認めた彼の呼び名を紡ぎます。視線を合わせぬ怒涛の紬歌は格好が付かないと嗤われるだろうか。それもないな、と学生は一度頭を横に凪ぎました。ふわりと黒髪は揺れます。揺れた髪は風に揺蕩い遊びます。
目前に十字を切る彼には、その唸り声にはただただ目を細め彼を見定め。神に祈るなんて、随分陳腐な信仰をお持ちなのね。嘲笑う声は、嘲笑に似た微笑みは、彼にはどう写ったのでしょう。]
(83) 2014/10/01(Wed) 12時半頃