……あァ、そう。今回はご縁がなかったな。
何の役だったんだっけ。たまに聞こえてたけど。
[己の職業を自ら明かすことはないが、別に秘密にしている訳でもない。必要がないから話さないだけだ。管理人である如月には事前に説明してある。家からほとんど出ず、稀に外出したと思えばド深夜なんて不審の塊だろう。共同生活において最低限の信用は重要だ。如月にも何かあれば職業を明かしていいと伝えてある。
大田が彼女から話を聞いたと知ったのは、廊下ですれ違った何てことない日だったか。記憶に残る特徴もない。強いて言うなら、雨が降っていたような気がする。
初めて舞台を鑑賞した後も、それから時折足を運ぶようになっても、己は感想を語らない。ただ行ける時に行き、行かない時は行かない。控室に顔を出すこともなく、アフタートーク含め幕が完全に閉じてから席を立つだけだ。
彼に脚本の評価を尋ねられた時>>20は、変わったことを聞くのだなと思った。合点がいったのは、小説について触れられた時だ。理由も想像できる範囲であった。あの管理人は、変わらぬ表情の下で住人をよく見ている。]
(79) 2021/02/14(Sun) 16時頃