[振り返ったら、心が折れてしまうから、ずっと前しか見ていなかった。
前へ、前へ。振り捨てるように、断ち切るように、飛んでいたのに。
聞こえた気がした幻聴が、あの人の声に似ていたから。そんなこと、あるはずないとわかっているのに、とうとう私は振り向いてしまう。
未練がましくて無様で、こんなの私らしくないと思うのに]
…………え?
[振り返った私は、目を疑った。
夜に包まれて眠る森が広がるだけだと思っていたのに、月明かりに照らされて、こちらに向かって飛んでくるのは]
だ、大丈夫なの!?
[慌てて私はそちらに向かう。だって鸚哥は断じて夜に生きる鳥ではなくて、そしてそういう鳥は、鳥目じゃないか。
今日は月が満ちているといっても、どう考えても無理をしている]
……どうしたの。
[そっと腕を差し出せば、鸚哥は腕に宿るだろうか。
もしやフィリップに何かあったかと、首を傾げてみせれば、鸚哥は教えてくれただろうか。
それとも、別の声が、今度こそ耳に届くだろうか]
(76) takicchi 2015/07/19(Sun) 15時半頃