[ 兄が何かに気付いたように進路を定めてから どのくらい飛んだだろう。 傾いた太陽が眼下の森を赤黒く染めて、 沢の水はオレンジの絵の具を溶いたみたいな朱。 高度を下げれば鼻を掠める森の馨は もしかしたら 彼女にも馴染みのある匂いだったかもしれないが。 人里遠く、ひときわ大きな楢の木の上に 蘇ったばかりの思い出と、 夕日を映して真っ赤に燃える兄が 灯る。 彼女の翼がその下に降り立てば 僕は人でない脚で木に宿り 僕の翼を抱きとめるだろう。 僕ともうひとりの兄さんで作った 文字通りの鳥小屋は 住人を失って埃にまみれていたけれど その一角に、我が物顔の お客がひとり。 『 Coucou, coucou, coucou, 』 **]
(75) 2015/07/17(Fri) 18時半頃