大丈夫よ。
あなたのお兄さんは、あなたを見失ったりしないわ。
[もちろん私もそのつもりだけれど、と言い添えて、私を包み込む優しい腕>>72に体を寄せる。
大切な人を、間違っても落としてしまうことのないように、私もしっかり抱き返して。
行くわ、と短く囁くと、10年振りの空へ飛び立った。
赤い星のような彼の兄を視界に収めながら、本来は夜の住人たる私が、光の下を飛ぶ。10年振りの太陽の光は、いっそ暴力的だと思うほどに眩しくて、まるで私は笑顔を作る時のように目を細めた。
夜に溶けるはずの翼は、青空の中の染みのように目立つだろう。逃亡中の身としては、それはあまり都合がいいことではないけれど、私の翼は大きいから。きっと追いつけるものなどそうそういない。
羽音のあまり立たない梟の翼で、人間の気配を避けるように、建造物のない方を選びながら飛び続ける私は。
自由と引き換えに失った大切なものに気づくことはなく**]
(74) 2015/07/17(Fri) 16時頃