[つかみどころの無い男だった。しかし、つかみどころの無いこの状況には、奇妙に似合っているような気もする。
からころと、再び下駄を鳴らして歩き始めた男につられて、千秋も歩を進めた。
行くところはあるかという問いに、答えを返す>>67]
行くとこ、というか、ウチに帰ろうか思とります。コンビニでもあれば、お金もおろせるでしょうし。
[どうにも、喋っていて現実味がなかった。至極まっとうなことを言っているはずなのに、むしろ自分の方がおかしくて、この状況や、男の態度の方が正しいような気がしてくる。
千秋は、真剣な表情を作った。前を歩く男には見えないだろうが、声は表情に引っ張られるものだ。]
僕は、ウチに帰らなあかんのです。やり残したことが、ありますんで。
[そこで、言葉を切る。深刻そうに、聞こえただろうか。]
(74) 2015/01/31(Sat) 15時頃