―簪の記憶―
私の愛した人は旗本の家の者だった。
私とは身分が違う。故に結婚には反対された。
子を身籠った私はお腹の子を守るため逃げるように身を隠した。彼との間の子が見つかれば子を堕胎せと言われるかもしれない。
身を隠す生活に彼も協力してくれた。彼の家の家紋の刻まれた簪を貰ったことが何よりも嬉しかった。私達は婚姻こそできなかったが夫婦として過ごす日々を送ることにした。
大望の赤ん坊、元気な男の子が生まれ、私たちは親子3人で堂々と生活出来る日々を夢見ていた。
そのような希望が脆くも崩れる出来事が起こった、江戸が大火に見舞われたのだ。
夫は火付盗賊改として働いていた。重罪である放火や盗賊を取り締まる役職だ。そんな夫からある義賊の話を聞かされていた。
「アイツは他の盗賊とは違う。でも俺は認めねぇよ」そう話す夫はどこか嬉しそうだった。
『この屋敷の者なら生活を見てくれる。頼るといい』
私たち親子を助けてくれた彼から夫の最後と面倒を見てくれるという屋敷を紹介された。彼が何者かは聞けなかったが、きっと夫が話していた人だろう。
(70) purupuru 2015/01/30(Fri) 23時頃