[>>62彼との出会いは、今日よりもっと寒い雪の日だった。
国元から無理やり女を連れ出し、けれどこの地では頼るしかなかった貴族に放り出されたあの日。
着の身着のまま、右も左も、この先どうすれば良いかも解らぬ絶望に蝕まれて。
いっそ死ねば楽になれると思い、冷たい川の水に身を投げようと橋の欄干に足をかけた所を、止めたのが彼だった。
どこかぼんやりとした様相で、けれど必死に死ぬことはないと繰り返して。
気が付けば、泣いて身の上を話す女と同じ位彼も泣いていた。
もしかしたら、彼の方が多く涙を流してくれたかもしれない程に]
……どう、シテ。
[何でこんなに優しくしてくれるのだろう。
不器用な手付きで、女の涙を拭いてくれる彼に戸惑い、問いかけた。
その答えは、女にとってもはじめて言われた言葉で余計、戸惑い。
けれど、彼のその言葉に、女は救われた。
少なくとも、この人が望む限りは生きていこう。そう、思うようになった。
それが慕情に変わったのは、他に寄る辺無い女にとって自然の成り行きだっただろう]
(69) 2014/09/03(Wed) 21時半頃