物語の中のように、其処から降りては来ないつもりか?"卵≪ハンプティ・ダンプティ≫"。
それとも君は、其処から降りたら――割れてしまうのかな。
[蜘蛛の糸は、使い道によって変化する。
獲物を捕らえる時、巣を作る時。その時々によって、硬くもなれば柔らかくもなる。
今回飛ばした糸は、三本。先のように重りを付けて向かわせたその糸の向かう先は、"卵"の持つ本ではなく――鳴らされた、指の方。
男の蜘蛛の糸は、時に鋼よりも硬いものとなる。先程の糸とは違い、粘り気のほぼ無いその糸は硬く、そして"鋭さを持つ"。
――存外、相性は良かったのかもしれない、と。この芋虫のくれた水煙管の煙が無ければ、きっと飛ばされる事もなかっただろう糸を思い、胸中で苦笑を漏らし。
……さて。
出来る事ならば腕一本、せめてその指の数本でも引き千切る事が出来たのなら、僥倖なのだが、と。
巨大な怪物の濡れた牙を、閃く爪を。せめてその巨体が動いてはくれるなと願いつつ"卵"を見れば、糸の行方は如何なものだっただろうか。]*
(60) 2015/06/24(Wed) 20時半頃