― 社務所・入口 ― >>53
[ トントントン、ガラスの嵌め込まれた戸が鳴っていた。少し開いた隙間から覗く少女が誰か確かめようと、スニーカーを履き終えてからりと戸を開く。]
……おぉ……久しぶり、やな。
[ぱちくりとまばたきをして見つめた。
目元、口元、鼻筋は確かに見覚えがあるのだが
そのどれもが記憶の中にあった女の子よりも成長した姿だったから。名前と眼前の相手を結びつけるまでには少しの時間を要してしまう。]
……早希ちゃんか。俺のこと、憶えてるか?
阿東礼のとこの、優やけど。
[港で食材を仕入れた際、聞いていたことを思い出した。
『優ちゃん。一人、飛び入りあるかも知れんでなぁ』
『あんた、優しゅうしたりんや?』
――その飛び入りというのはつまり彼女、虹野早希のことなのだろうか。ただ、いかに優と言えども開口一番でそう尋ねるのは躊躇われてしまったのではあるが。]*
(59) 2020/09/10(Thu) 23時頃