[手には赤色の曼珠沙華を握りしめ、只管に走って級友の元に駆けつけようとしていた。
目の縁には涙が溜まり、今にもこぼれ落ちそうな。
いや、目元がわずかに腫れ頬に少し涙の跡が残っていたものだから、きちんと顔を見られたならすぐにわかるのだろう、泣いていたその事が。
急に呼び止められて体が跳ねる。>>43
声の主を振り返り、小さな体をより縮こませて恐る恐るその顔色を伺った。
内気な祥子、とは言え村人ならば一度は顔を見たことはありそうなものなのに、誰なのか思い出せない。
他所の人、なのだろうか]
………な、泣いてないもん!
[また目頭が熱くなり涙が溢れそうなことに気づいて、逆の言葉を口にしてはゴシゴシと袖で目元を拭った。
曼珠沙華を握り締める手の力が強くなる]
お兄さん………だれ?
お兄さんも曼珠沙華、とっちゃったの?
ダメだよ、ほんとはだめなんだよ!
[自分も手にしているというのに、彼の足元に落ちる赤色の花に気づけば嗜めるように眉を顰めた]
(57) 2016/11/16(Wed) 00時頃