― 一年前:ボストーカ市街 ―
[勢いよく吹き付ける風を浴びながら、少女は屋上のフェンスの外へ身を乗り出し右足を空中へ上げた。
他の人にとってなんてことの無い日。もしかしたら誰かの誕生日かもしれないし命日かもしれないが、もうそんなことさしたる問題ではない。
―― だって、今日が私の最後の日になるの。
私にとって最高の日になる、――はずだった。]
……ふふっ
[集る野次馬へ持っていた鞄の中身をぶつけるように空中から放り投げた。
ただ唯一。足元に残されたハードカバータイプの小説を一度だけ見つめ、すいと視線を逸らす。大好きな作家の葉月シリーズの一作だ。
それも見納め。まだ新作は出るだろうか。読めないのはやっぱり残念。]
さよなら、ここで終わりよ。お父様もお母様も、私も。
[ 呟いて小さな体を空へ放り投げ――――― ]
(56) 2014/10/27(Mon) 19時半頃