[――がたん、
戸口に鍵をかければ、薬師は薬屋に背を向けて歩き出した。特に宛も無いけれど、奇妙な手紙が来た手前、家に居てもどうにも落ち着かないから。
一通目の手紙と、薬屋の鍵とを白衣のポケットに押し込み、ただゆると道程を行く。二通目の手紙を破いてしまったのは、不味かったかもしれない。鼠小僧を捜そうというのなら、手掛かりは多い方が良かった筈だ。とはいえ今更言っても、詮無い事。
……そもそも、事此処に至ってもまだ、鼠小僧が実在するとは思えないのだけれど。
ふ、と。
思い出すのは、昨日した知人の女との会話。手紙は異人に対する悪戯ではないかと、そう推測したけれど。
ならば、半分異国の血が混じる"彼"にも、この手紙が来ているのだろうか。ならば、彼を訪ねてみるのも良いかもしれない]
(55) 2015/01/22(Thu) 19時頃