―― 翌朝・自室にて ――
[ドンドンドンドン!と激しいノックオンで目を覚ませば、時計は8時をちょっとすぎたくらいを指していた。
なんだろう?と寝惚け眼のまま扉を開ければ、そこにはしかめっ面をした宿の主人が立っていて]
(?またチップかな…)
[ぼんやりそんなことを考えていたら、事実はもっと重たく、厄介だった。
旅芸人の一人が惨殺されたらしい。といっても男はその旅芸人と何の面識もないわけで。
大変ですねぇ…と他人事のように呟けば、至急集会場へ向かうよう言い渡されて]
え!?え、何故です??
何故僕が?
[慌てて尋ねる男に、主人はむしろこっちがききたい!と食ってかかる。年に一度の稼ぎ時なのに、殺人者を泊めたかもしれないなどと変な噂が立っちまったらどうしてくれる!と。
主人の言い分も尤もだ。しかし身に覚えもないことで容疑者扱いされてもな…と、ほとほと困り果ててしまった]
…疑いが晴れれば、すぐ釈放されるよね?
[男は誰へともなしに呟いて、今日はタキシードではなく、シャツにベスト、コーデュロイのパンツ姿に着替えて部屋をあとにした]
(55) 2013/08/30(Fri) 15時頃