―― その日の晩 ――
[ルッタラ〜と鼻歌――というよりむしろ高らかに歌っていたと言った方が正しいかもしれない――混じりで宿へと戻る。まさに地に足がついていない状態という言葉がぴったりだろう。
ニコニコ顔で宿の扉を開けた男は、おかえりなさいと声をかけてきた宿の主人に銅貨を渡し、きょとんとする主人をそのままに自室へ戻ったのだった。
―――その晩、変な夢を見た。
昼間キャサリンを介抱してくれたあのフルート吹きの男の前で、彼女と踊っているのだ。
どんなに激しく回っても、汗ひとつかかず、また足に疲れも感じない。
目の前で楽しそうに微笑む彼女を見ていたら、こちらまで嬉しくなって。
現実にこんなに激しい踊りなんかしたら、きっと彼女は倒れてしまうだろうから]
(ああ、幸せだ!)
[男は確かに、幸せの絶頂にいた。
これから起こる悲劇など、全く予感せぬまま―――*]
(54) 2013/08/30(Fri) 15時頃