―2階・露天風呂―
[脱衣場で粛々と包帯を解いていく。
宿内を知り尽くしているソフィアが失われて、あれこれ探すのに余計な時間がかかってしまった。
崖から落ちた際の骨折が身体を輾ませる最たるもので、外傷はソフィアの遺体に比べれば微々たるものだった。付着した血染も、包帯の内側より外側の方が多い]
あれが人狼だったら、
僕は何故助かったんだろう……。
[顛落して意識を失った。狼の鼻なら血の匂いを嗅ぎ分けられただろうし、見つかればソフィアと同じ末路を辿ったはずだ。
じっと自身の赤黒い手の平を睨む。
と、思考を救い上げるように、仕切りの向こうから微かな音が聞こえた。
夢見草の枝近くまで張り出した露天風呂。聳える壁の向こうはもう一つの桃源郷、女湯である]
他の誰かも、血で汚れたんだろうな。
[何事もなかったかのように呟くが、内心悶々と膨らむ期待に、軽く頭を振った。自分の頭がお目出度すぎる]
それともソフィアを襲った人狼が、返り血を洗いに……?
(53) 2012/04/16(Mon) 21時頃