[医者からガン宣告を受け、病院から立ち去り、家路へと着く為に雑踏を掻き分けていた時に、ふと足を止め巨大な樹木を見上げた。
街の中心に聳え立つ巨木は、そんな青年の事を静かに見守っていたのだろうか。
いや、ボストーカの全てを見守っていたのだろう。
街全体を見下ろす葉から見た己は、根元で這う蟻と同じかも知れない。
木漏れ日が漏れる様に注がれた光が青年を包み込む。
唯の光ならば、気付かずに帰路に着くだろう。
薄紫色のベールの様な神秘的な色を孕む光が降り注げば、黒曜色の瞳は大きく開いた。]
――……っ!?
[摩訶不思議な光を目にし、声を出す事は出来ず、何度も瞼を開いたり閉じたりし。
瞬きする事数回、ゆっくり瞼を開けば、あの不思議な薄紫色の光は消え去っていて。
生まれて初めて見る光景に愕きし、呆気に取られていたのは、数ヶ月前の昼下がりの事だった**]
(53) 2014/10/27(Mon) 16時半頃