ー ニズ駅前 ー
[–––––聖堂だった。
夕日に青い屋根やステンドガラスは輝き、
その下に施された天使の彫刻は顎の下まで丁寧に清掃されている。
時計台が30分を示せば、その上の鐘楼が控えめに時を告げる。
この街は、通り抜けられない。
少年の直感がそう囁いた。
泥を投げた 痕跡すら壁に残らぬ教会は、この地域の信心深さを示している。
見回せばその通り、彼方此方の軒先に神の証が掲げられている様子だ。
信心、即ち善意に転じるそれは、自分の様な薄汚れたひとりぼっちの少年を放ってはおかないだろう。
それがどんな宗教であれ、同じこと。
彼はそれを一度経験し––––一度『食い物』にしたが。
その事を知るものはこの世に誰一人生きていない。
今は、出来ない。
自分の事を知る者があの地で『生きている』のだから。
唇をまた噛み締めると踵を返し、今度はフェンスを潜り抜けて再び雑踏に紛れた]
(50) 2015/11/30(Mon) 13時頃