[地震の後。生存者でもなく、死傷者でもなく、行方不明者でもなく、彼の名前はそこになかった。
否、生き残った生徒の口から彼の名前が出れば、その名は出たのかもしれない。
ただ、救助作業が終わり、数日経った後も彼の遺体はなく、また持ち物も鞄が一つ、職員室前に置かれていただけで他は何も見当たらなかった。
脱いだはずの白衣も。
校長室に置かれた離職届。理科準備室に用意されていた残りの授業分のプリント。
いつおかれたのか。
だから、彼はその日学校からは立ち去ったのだと、警察側は考えたようだった。
けれども、卒業式が執り行われれば、化学教師の姿を見たものと、見なかったものに別れるだろう。
うるさくしていれば小突かれ、その視線を受ければまるでそこにいるように思えたかもしれない。
卒業式にピアノの音が響けば、光の中白衣が見える。
それが、誰の鳴らした音でも、その目には、彼の姿が映るだろう。
初めからそこにいたように、「生徒」を見守るように*立つ姿が*]
(47) waterfall 2010/03/10(Wed) 13時頃