[じっとりと肌に汗が滲む。足を動かしくるりと回る度、手にした扇子が風を巻いて、遠心力に振られた髪が頬へ張り付いた。
玉を結んで落ちた汗が、地面へと吸い込まれる。男は動きを止めると、手の甲でぐいと額を拭った。
荒い息を整えながら宵闇の空を見上げる。暗い色の瞳に映り込んだ半月は、まるきりおもんにやった飾り櫛のようだ。
と、視界の端にころころと転がり込む赤い何か。>>38
爪先にぶつかって止まったそれを、屈んでひょいと拾い上げる。赤い手毬。これは。]
あんたのかい?お嬢ちゃん。
[転がってきた方を見れば、紅い着物の幼子の姿。>>39
手毬を受け取りながらも、ぽかんと惚けたみたいにこちらを見上げて、小さな唇だけがはくりはくりと何度か動く。
小首を傾げてみると、懸命に押し出された声が言った。『あなたはこの地の人ですか』。聞き覚えのある音色に、おや、と思う。今朝の。]
(47) 2015/04/20(Mon) 23時頃