─ 1階:旧バーカウンター ─
[賀東荘一階、ロビーから伸びる通路の奥。
小洒落た曇りガラスの扉の先から漂うのは珈琲の香り。
嘗ては、バーとして多くの客をもてなしていた其処に
すらりと背の高いその女は立っていた。
天井から下がるモダンな照明は消えたまま、
小さな窓から曇り空>>2の薄明かりが僅かに部屋を照らしている。
日本酒の瓶が所狭しと並んでいたであろうその棚は、
貰い物の蜜柑だの箱に入ったままのビールグラスだの、
シェアハウスとしての生活感で塗り潰されていた。
カウンターの端に設置されたサイフォン式コーヒーメーカーを前に、
女は背を伸ばしたまま、マグを片手に静かに佇む。
黒で纏めたきっちり目のオフィスファッション。
目尻までくっきりとブレなく描かれたアイライン。
端的に言えば、それらは『美人』の構造を持っていた]
(44) 2021/02/13(Sat) 02時半頃