[帰りたいだなんて思うほど家に居心地の良さを感じていたわけではない。だけど今ばかりはとても家に帰りたくて、……帰りたい、じゃない。ここから出られないのはいやだ。知らないところでただ何かを待つのはいやだ。
啖呵を切るおもんさんの声も、どこか楽しげな男の子の声も、火のついたような女性の声も、青ざめた耳から抜けていくだけだ。
故郷にも幽霊話は沢山沢山あったけれど、どれも一つも好きじゃない。理不尽に人を襲い、気紛れにそれを殺す奴だって確かに居るんだ。遊ぶ、と言ってもそれで終わるの?本当に?]
………………ッ!!
[喉が渇いて、唾を飲むのも出来なかった。夕顔、と名乗る幽霊が視線を外した瞬間、
……土を踏む音だけが伝わってくる。キャリーを持ち上げて駆け出していた。
どこか、どこかへ。少なくとも彼女の目の届かないところへ]
(41) 2016/11/17(Thu) 09時半頃