[幼い頃に、自信の立場や責務の重さに押し潰されそうになった時、助けてくれた腕がありました。その腕は、今よりもずっと短く細いものでしたが、その腕の中でわたしは思いの丈を吐き出して、救われました。
先日もそのようなことがありました。自身の力の及ばなさに嘆き、悲しみ、苦しみました。今もその中にいるのは確かです。
あの優しい腕の包みは揺り籠みたいで心地よいものでした。
けれどそうではない、強い腕の力で身体を引か抱かれた。
そんな事もするようになったのだと――今更ながら思うのでした。
屋上でライバルと歌い合った時も同じ。幼い頃から知った人が、昔とは変わってしまったのだと、気付かされて、それに気づいて認めてしまった時、心の奥底が震えると知りました。わかりました。
一途な女の残滓を手繰り、わたしはひとり考えるのです。
恋に正解などなく、嘘も真もありはしないのでは、と。
ああ、だけど――…静かに、ピンスポットを浴びて
(なぜかフィオーレの時間がこの瞬間だけ止まっています)
赤と黒の色が二分した着物を纏い、
フィオーレにあった花(マイク)を取れば歌い出す。]
(39) 2022/09/15(Thu) 14時頃