― 回想:客達の世間話 ―
[『軌道』を書き始めて暫くは展開に詰まることが多かった。登場人物の特徴をまだ掴みきれておらず、場面ごとの心情の舵取りを迷っていたからだ。
特にライバルが登場した場面では、担当に何度も修正を依頼された。
お互いに想いを伝えることなく過ごしてきたふたりの前に、ヒロインへ想いを寄せる男が現れる。彼は想いを伝える言葉を惜しまなかった。結果、ヒロインは主人公の傍を一時離れることになる。
その後、ヒロインは結局主人公の元へ戻るのだが、どうしてもその流れが上手く作れなかったのだ。
プロットに取りかかる前に観た演劇>>1:308の影響もあるのかもしれない。
声を持たない娘は、劇中一度も声を発さない。
青年は言葉を有するも、微かに残る疑念へ口を閉ざした。
女性だけが自分を素直に表現することで、彼女自身の魅力に青年が気づくきっかけを得る。
想いは、朧のようなものだ。
そこに在るだけでは輪郭を捉えることはできない。
望みがひとりでは叶えられないことなら、形にして相手に差し出す必要がある。
言葉でも、それ以外でも。目に見える形で。]
(35) 2021/02/16(Tue) 06時半頃