[興奮すると同時に、雛子は彼を少し羨ましく思った。彼は「人形作家を目指している」と堂々と言ったから。誰にも漫画を描いていると言ったことがない自分とは大違いだ。どうしたら、このようにはっきりと言えるようになるのだろう。
実際に聞こうとした時、電車が一度ガタンと大きく揺れて止まった。無機質な声のアナウンスが響く]
まどろみの……?
[聞いたことがない駅名だ。けれど、終点だから降りなければならないらしい。外はどんなところなのか、恐怖は少しも感じなかった。何故ならここは夢の中なのだから。
スケッチブックをしまい、再び男の人の方を見る。もう少しこの人と話したいと思った。絵も見せてもらいたい。一緒に降りることを提案しようとして、まだこの人の名前を知らないことに気づいた。そういえば自分もまだ名乗っていない。]
あ、あの。私、朝倉 雛子といいます。貴方の名前も教えて頂けませんか。
それと、良かったら一緒に降りませんか……?
[精一杯の笑顔を浮かべ、男の人に手を差し出した。*]
(34) 2019/02/07(Thu) 15時頃