[そして今、バンドは、
――メジャーデビューの話が舞い込む程度になっている。
メジャーデビューの可能性。その選択肢。それがここ一年弱の専らの、バンドの、青年の、課題、あるいは議題、だった。自分達のバンドがメジャーを考えるような場所まで来た、その事はメンバー全員が迷いなく喜んだ。結成からの三人は――青年もだ――尚更だった。
けれども。
だからどうするか、というのは、直ちに決まるようなものではなかった。
容易に決められるようなものではなかった。
メジャーに移れば勿論バンドは今以上の知名度を得る。より広く音楽を世に出していく事が出来る。だがそれにあたってはやはり、多かれ少なかれ、「変わる」必要、というものがある事は、否めない。
音楽性の違い、ではないが、この件に関して、今のメンバー間には些か微妙な空気が漂っている。青年は、正直なところ――メジャーデビューには、消極的だった。三人の中ではシーシャは逆に積極的で、ヴェスパタインはどちらともいえずにいる、中立だ。残るドラムは積極的で、キーボードは消極的で――
つまりは完全に、どちらともつかず、になってしまっている故に]
(33) 2016/09/27(Tue) 02時半頃