― 回想 パン屋の前 ―
…せんせい。
[寒いか>>0:351、と問われたなら、学生は何と答えたのだったでしょうか。きっとうんともすんとも付かないまた曖昧な言葉を返したに違いありません。
空を見上げれば矢張り煌めく陽の光は目を貫き、思わずに強くまぶたを抑えた覚えは確実に。その横目に見えた景色、扇子を開いたせんせいの姿には、ああやっぱり、和のものが似合うなあ、まるで何の役にも立たない感想を。
そして肩にかかるゆるい温もり>>0:352には、睫毛を揺らしてみせました。戸惑いと共にせんせいに向けた、せんせいを呼ぶ声は震えて居たかもしれません。学生は何年も自分に向けられることのなかったぬくもりに、酷く安心を、そして警戒を覚えてしまいました。身を固くしては恩も忘れ、うつむき加減に、しかし直ぐに感情を誤魔化すように顔を上げてはみせたでしょうけれど。]
(32) 2014/10/03(Fri) 03時頃