[チールーよりも年下の、玉の首飾りを掛けていた若い女。
恋人と公言はせずとも、想い寄せていた女。
シビルの夫が「人狼」であると、初めはおずおずと、
けれどやがてはっきりと訴えたのは、彼女だった。
それはこの告発によって彼がブローリンに殺された時か、
或いはまた別に処刑された者の時か。
女に告発された者を、霊能者が「人だ」と告げたことで
彼女は騙る者と見做され、死に至ることとなる。
その心臓を刺す役を請け負ったのが他でも無くこの男だった。
止めを刺した瞬間の男の表情を。彼女に囁いた言葉を。
きちんと知るのは、刺された女くらいだったろう。
彼女を手に掛けた折にも――そして今に至るまでも、
チールーが感傷の類を周囲に見せることは無かった。
そうまでして、この男が気丈に振る舞い続けるのは
この騒動で傷を負ったのは自分だけではない――
誰かを失ったのは己一人ではない、という思いから**]
(32) 2013/06/04(Tue) 19時頃