[与えられた“命令”(>>29)に応じてコックリ顎を引くと、揺れに驚いた渡鳥が空へ発った。今し方まで鳥の足場になっていた事にも、その鳥が頭頂部に糞を落として行った事にも気付いていない男は、鷹揚に立ち上がり動き出す。]
ア゛ァ……下、ミナ呼ぶ、獲物ダ
ア゛ァ……獲物ダ
[頓痴気な鸚鵡よろしく“命令”を準えた発声を残し、船室へと足を向ける。男は、命じられた用事を最短で遂行するためにだけ、足りない知恵を使う。例えば甲板に積まれた縄束を踏み付け、掃除に勤しむ若輩の船員を蹴りつけ直線移動を選ぶのも、浅はかな知恵に依る。]
―第二甲板―
[第二甲板へ降りるや否や、木板の壁を殴りつける。
軋ませた壁の一部に亀裂を生んだ一発は、派手な音で手近な船員たちの注意を集めた。そこへ大きく膨らませた胸から押し出した声を放つ。]
(31) 2014/12/07(Sun) 14時頃