―森の中 >>24>>25―
「誰の為にこの史実を残すか」……それはひどく難しい問題です。私がこれをただの「仕事」として見られるとしたら、どんなにか楽だったでしょう。
私の興味は、いつの間にか、「ただの秘祭」から「御使い様」と「巡礼者」の関係性にシフトしていったのですよ。その「事実」だけを見届けることしか、今は不思議と考えられません。
私が新聞記者であることが悔やまれます。
学者としてここに来たならば、あなた方をゴシップの世界に投げ込むという可能性を少しは軽減できたというのに。
[ふと自嘲的に笑みを浮かべる。]
ああ、こんなことならば、師匠が私の研究成果を全て盗んでいったことを訴えなければ良かった。
このような人知を超えて起きた世界の話を記録できる栄誉を、私は無駄にしてしまったことを、後悔しているところです。
だから――別に私はあなた方に親愛の情を抱いているわけではない。私は「巡礼者」であっても未だ「生贄」ではありません。
それ故に、私はあなた方に余分な怒りや恐れなどを抱かずに済んでいる。それが、私が「御使い様」と「真摯に向き合っている」ように見える理由なのかもしれません。
(30) 2010/08/06(Fri) 08時頃