ー ニズ駅→ ー
[ぱたぱたと。
群衆の中を走り抜け、人の目を掻い潜り、フェンスを飛び越え、階段を駆け下りる。
『列車内の』少女と明確な接点を持ってしまった事が、彼にとって最大の不安要素であった。
親切心は時に美味だが身を滅ぼす原因にもなる。
息を整えながら、胸元でツルの取れた眼鏡をきゅ、と握る。
同族以外に心を許すな。
例えそれが狂った人間だとしても。
彼が今、心底信頼できる者は自分以外にもうこの世に存在しない。
それでも憐れみの様に差し出された菓子や食事に、
『こどもとしての貧弱さ』に頼らざるを得ない程に
それはまだ、脆く。それが情けなくもあり。
それによって生まれた薄い繋がりが、
彼を安堵から隔てる境界線でもあった。
単純に言えば目立ちすぎたの一言に限る。
ほんの少し、施しを受け。廊下を走っただけだが–––––自意識過剰、という言葉で語れるほど彼の事情は甘くはないのだから]
(27) 2015/11/30(Mon) 02時半頃