―― 昼前:道中→広場 ――
[家から出て村の中を歩いていると、すぐにその異様な空気に気がついた。行き交う人々の顔には多かれ少なかれ恐怖と、不安と、疑念の色が滲んでいて、口を開けば人狼という単語が飛び交っている。
そうして広場に辿り着いたとき、青年は思わず口を押えた。
広場の中央、既にシーツが被せてある「それ」は、右手を大きく伸ばした姿でそれは息絶えていた。
…誰かに助けを求めていたのだろうか。
あたり一帯の地面は、血を吸ったのかどす黒く変色している。
あまりにも凄惨で俄かに信じがたいその光景は、不思議なことにちっとも現実味を湧かせてくれない。
これから教会の裏手の森を進んだところにある墓地へ、この遺体は運ばれるらしい。
人払いのために立っている男性から聞いた。
その横で、村長を囲んだ数名の老人たちが、なにやらヒソヒソと話し合っている。]
(26) 2015/04/20(Mon) 02時頃