― a year later 〜銀の皿〜 ―
[ 間もなく馬車が村に着く、と報せてくれたのは、森の番人だっただろうか。
彼女は口ずさんでいた子守唄と、林檎を擦りおろしていた手を共に止めて、店に残っていた客を追い出しにかかる。]
ほら、いつまでたむろしてるのよ。今日は店終いだって言ってるでしょ。尻を引っぱたかれなきゃ動けない愚図は誰?
[ 独特なハスキーボイスは甘やかに、歌うように、辛辣な言葉を連ねて店舗に響いた。
口々に文句を言う男達を箒で掃き出すと、はぁ、と息を吐く。
ちらりと鏡を覗き込み、耳の下辺りで短く切った赤毛を手早く梳いて整えた。]
お母さん、お母さん――!スープの鍋、見ててよ!
私ちょっと出て来るからね!
[ 裏の菜園の方に声をかけて、窓際の揺りかごへ。
琥珀の眸に愛しさの色を乗せて、眠る赤子をそっと抱き上げる。]
…うちの客達の大騒ぎにも動じないなんて、大物になるわよ…まったく。誰に似たのかしら。
(23) tayu 2010/07/10(Sat) 00時頃