―回想:少し前―
[最初は、軽い気持ちだった。皆がイメージしやすい、典型的な貴族を作品に出したい。
誰をモデルにするのがいいだろうか。最近家督を継いだというユスポフ公など、いいのではないだろうか。
よし、ならば彼のことを調べてみよう。
ともすれば、作品の登場人物が似すぎてしまうかもしれないが。場合によっては貴族への名誉毀損と取られるかもしれないが……いやいや。それが怖くて作家が務まるものか。
そうして二週間ほど、彼のことを調べまわった。
調べれば調べるほど、イメージが固まっていく。自分の抱いていた「嫌な貴族」像は、そうまで的外れでもなかったらしい。
あの話に触れるまでは。そのくらいにしか思っていなかった。
最後に触れた情報。
「最近あの屋敷に勤め始めた女中が突然亡くなったって」
「公式見解では病死って事になっているけど、殺されたって噂も流れてるねえ」
「あんたも知りすぎるのは良くないよ、なんたって貴族様のされることだし」
――それを最後に、彼はユスポフ公について調べるのを止めた。言い知れぬ恐怖に屈するのは、彼にしては珍しいことだったと言えるだろう]
―回想終わり―
(21) 2014/09/05(Fri) 21時半頃