――知るか。
俺が体現するのは先代ボスの理想だけだ。手前ぇに期待されたって、全然有難くも痛くも痒くもねーよ。
無事だな、イアン。
[それだけ言い捨てて、開け放たれたドアをくぐる。無感動に控えていた仲間の名を呼んだ。
何てことない顔をしてこちらを窺ってくる仲間には、肩を竦めて背後を指差した]
「……で、どーするん?これから」
[道の事務所を見上げながら、軽い口調で問うてくる青年。彼もまた、どこかのはみ出し者だった男だ。
爪を一つ噛み、唸るような声で告げた]
パピヨンのマダムの所に行ってくれ。今回の跡目争いが滞りなく終わるように、我々『烏』は全力でそちらに協力すると。
あの爺、手前がボスの代弁者だとか思っていやがった。俺に説教していい奴は――アイリスと、ボスだけだ。
[おお怖、とひょうきんにおどける部下に苦笑を洩らして。東の空は、既に白み始めていた。
アジトに帰る頃には、例の知らせが届いているだろうか――*]
(20) 2010/03/19(Fri) 01時半頃