― 放課後、教室 ―
 メアリーは――まだ、部活の時間か。
 ……今からでも、間に合うな。
[そんな独り言を零しつつ、生徒の姿もまばらになった夕暮れ時の校内を足早に教室まで向かい、扉を開ける。
 部活動に使われていない教室には、既に誰の姿も無く、消灯されてもいる。
 もちろん窓から入る西日だけでも、まだ十分に明るい時分だ。
 自身の鞄を回収し、どこで彼女を待つか、出来れば他に人の居ない所がいい……と考えを巡らせていたが。
 メアリーの机の上、ぽつんと置き忘れられたペンケースに気が付く。
 つまりこのまま、ここで待っていれば、そのうち彼女はやってくるだろう──これもまた、物語の引力であるならば。
 侑伽はそのペンケースを、困ったものを見るように暫く見つめてから。]
 ……正直、……歌いたく、ないな。
[ぽつりと、ぼやいた。**]
 (20) 2022/09/02(Fri) 22時半頃