[父は多額の借金を残して早死にした。
酒は飲むわ金がないから病院には行かないわ、恐らく体のいたるところにガタが来ていたのだろう。
その日は早いうちから出来上がっていて、性懲りもなく咎める母を気のすむまで殴った揚句、それでも溢れ出すアドレナリンを垂れ流したままどこかへ飲みに行った。
過去に殴られた治りかけの黄アザ、押したら痛そうな内出血の青アザ、散々殴られてできたてほやほやの赤い腫れでカラフルになった顔をあげた母は、部屋の隅で一部始終を死んだ魚のような目で眺めていたわたしのほうを見て、情けなさそうに笑った。
「てへへ」といった感じで笑う母は、娘のわたしが言うのもなんだけど、なんだか堪らなく扇情的で色っぽくて、
その時わたしは「だからこの女は殴られるんだな」ということと、自分の中に確かに父のバイオレンスなDNAが流れていることを感じた。
父は明け方になっても帰って来ず、どこぞの農場の肥溜めで逆さになって死んでいるのが見つかった。
肥溜めに真っ逆さまだよ? いったい何と間違えたんだろうね。
農家が朝見たら、暗い水の上から二本の脚がにょきっと生えてたんだって。
はっ、クソ無様な死に様。肥溜めだけに]
(17) 2016/10/06(Thu) 19時頃