[頼りなげな色を宿して返された翡翠。
濃藍の睫毛を伏せるようにして、フィリップの厚い唇に落ちるのはラルフの視線。ラルフがフィリップに顔を寄せるのは、呼気が触れないでいられるギリギリのラインまで。胸が痛む、零れる彼の吐息に同じような熱が在ると想いながら、夜の薔薇園へ自分が誘いたい、結ばれたいと願う相手は、目の前の翡翠ではないのだ。]
…ん。
[小さな悲鳴に目を閉じて、フィリップとセシルの二人から離れる。]
血が、出てるから。
慎重に──担架が有れば良いけど。
医務室にある、か、な。
無ければ、清潔なシーツを、取ってくるよ──。
[フィリップが拾い上げるハーモニカを見て、さっきの曲は誰の好きな曲だったのだろうと、重く甘く沈みそうになる意識の中で想う。あの賛美歌がフィルの好きな曲なの?──とは尋ねず、旋律の記憶だけを胸にしまって、ラルフは一度、医務室へ。]
(15) 2010/09/09(Thu) 06時半頃