─ 舞台 ─
[スポットライトに照らされて、自分はユーモアたっぷりに肩を竦めているだけだ、と言わんばかりの態度で口笛を吹きながら舞台にあがる。実際は頭がグラグラして、床面に直線の模様が入っているが幸いな程だった。
目映いライトに照らされ、イアンと同じエントリーナンバーの札を下げた者の中に、資料として見た事のある赤い某国の民族衣装、着物を着た黒髪の少女が混じっている事に気付いた時だけ、イアンは捨てて来た方の祖国を思いだしたように顔を顰めた。鼻に皺を寄せて。
客席はチカチカしてよく見えない。
ヘラヘラ笑ったままだったイアンの顔面から血の気が引いたのは、黄色を纏った道化師の盛大なアナウンスの内容を聞いてからだった。
鳥肌が立つ。だが、表情をなるべく変えないように努めながら、瞳孔を見開き自分達を「買う」と言う主賓達がいる客席を見定めようと。]
(15) 2010/04/03(Sat) 02時半頃