これ。
[問いに満たない言葉に返答を求める気はない。彼女がどう口を開こうが、男が次にとる行動は手に持っていた紙袋を差し出すことだ。
深緑のベースに金色で印字された洋菓子店>>2:210のロゴ。ほとんど部屋に篭りきりで、外出しても決まった場所にしか行かないような男でもない限り、ある程度の中身を推測するのはそう難しいことではないだろう。
如月の手が紙袋の底に触れ、取っ手の引きが弱まったのを確認してから手を離す。]
205号室に。今日じゃなくていい。
……いや、今日じゃない方がいい。
先日の詫びだと。それだけで分かると思うから。
[茶色の小箱を開ければ、甘いバターの香りが漂ってくるだろう。薄橙色の細い紙の帯に包まれて眠るのは、まるい小鳥のサブレだ。黄色い雛が全部で5羽、透明なフィルムに包まれて目を閉じている。
如月は紙袋の中を覗くことなく了承の意を示した。こうして彼女に誰かへの荷物を頼むのは、三上への焼き菓子に続いて二度目だ。男の生活時間が周りとズレていることは、説明せずとも伝わることだった。]
(14) Pumpkin 2021/02/19(Fri) 00時半頃