[母は過去、偉大な選手だったという。
彼女は自らの経歴に誇りを持っていたので、
同じ経験をさせてやろうと、期待がその子どもに向くのも自然な話だ。
記憶も怪しい頃からの訓練は確かに効果的ではあったし、才能が全く遺伝しなかったわけでもないようで。
なかなかの成績を収め、競技自体も好きだった。
長い間、好きなだけだった。
それでも、じわじわと理解し始める。
中学に入学して、新体操部がそれなりに名を馳せていたことを理由に、母の送迎で妹と通ったスクールをやめて、部活に入った。
誰よりも力強い目で踊る、あの子と距離を置かなければ、潰れてしまいそうだった。
3年間は充実していたが、中学最後の年に入る頃には、もう決めていた。
努力や根性や気合といった何かだけで、これから先はどうにもならない。
どれだけ構成に忠実に演技をこなしても、古き日の母や妹と、同じ競技をしているように思えないのだ。
輝く才能がなくても、ずっと見てきた世界で、自分の限界をなんとなく察してしまう。
表面的に褒めるなんてしない母の苦笑が耳に刺さる。]
(13) 2015/02/06(Fri) 01時半頃