[夜の海は静かでいい。 だからこうして、時折、夜風に吹かれにくるのだが、今宵はその風も穏やか……いや、殆ど無い。 航海術に疎い男は、別段、それを気にすることもなく、寧ろ波が静かで佳い、などと思っていた。 たまに見かける夜釣り趣味の男も、今日はいない。 尤も、いたところで、やはり自分から話しかけることなど無に等しいのだが。 見上げた月は、真円を描いていた。 まるく、船を照らす月の色は、まるで淑女から吸い上げた血のように、朱く。 それを見上げる男の瞳は、絶望を己の血肉に蓄えるかのように────紅い**]
(12) 2014/12/11(Thu) 02時頃