―台所へ―
[見た目だけは古びた廊下を歩いて少し。
やはり記憶と違わぬ位置にあった台所に、ひょいと足を踏み入れる。]
ああ、なんか、やっぱり懐かしい感じしますね
食べ物がこんなにあるって、変な感じ
[懐かしい、とは言いながらも、以前ここを訪れた時に、瑛美が料理をすることなんてなかった。
それはいわゆるマネージャー役で合宿に参加している部員たちの仕事で、
マネージャーというのも、つまりは選手として脱落して、それでも部に留まった生徒を指していて。
ふと、コーチの指示で彼女たちが作った薄味の料理と、自宅の空っぽの冷蔵庫を思いだした。
目の前の光景とくらべて、あははと笑う。わざとらしく口を開けて。
ここには自分を否定するものもあまりなくて、いつもより随分と気楽なはずなのに、それでも時折心臓を直に掴まれたように胸が痛い。
帰りたい。なんにも楽しくなんかない、ばかげた遊びで人生を浪費しているだけの、それでも良いから日常に帰りたい。]
(11) 2015/02/06(Fri) 01時頃