―うすずみさま―
[気づけば人ごみを離れ、桜の巨木のあたりまで戻ってきていた。
どこか夢心地のような、ふわふわとした感覚…きっと慣れないことをしたせいもあるのだろう。
桜の巨木に背を預け、座り込んで一休み。]
…あれ?
[見上げた枝の様子が、さっきと少し異なる気がして。
少女はもう一度立ち上がる。
小さな草鞋を履いたつま先で、とんとん、とーん、と地面を蹴れば、ふわりとその場に舞い上がる。]
あ。
[近づいてみれば、先まで裸だったはずの枝に、薄桃色のつぼみが膨らんでいた。
ふふ、と思わず笑みが漏れる。
蕾たちが、開く時を今か今かと待っている。
きっと、その時が来たら、みんな一斉に開くのだ。
きっとそれは、とても美しい光景なんだろう。
少女はそっと枝を一撫でしてから、眠った子を起こさないように、静かに静かに大地へと帰る。]
(11) 2015/04/18(Sat) 16時頃