Well, well.
[道化のひん曲がった唇がぽつりと愉悦の感情を示す音を紡いだ。
その呟きは小さいが確りと周りにいる者の耳に届き、裡に孕む邪悪な意思をまざまざと感じさせただろう。]
麗しいレディがあちらにいらっしゃるじゃないか。
“おもてなし”の準備をしなければいけないね。
[前方に微かに見える黒い点…獲物となる船を見据えて道化は眉を上げる。
その道化は常に口だけが笑っており、薄く開けた瞳から差す眼光は見る者を凍らせる。
彼が何か手振りをしようものなら、足を運ぼうものなら、その動きによって掻き混ぜられる空気には常に恐怖が孕む。
道化を自称しておきながら、道化の装いを纏っておきながら彼は誰よりも道化とは対極に位置する畏怖の権化であった。
その化粧はそれを見た者に記憶から消し去り難い恐怖を刻むためにあるのだ。]
(11) 2014/12/07(Sun) 07時半頃