夕顔、ちゃん。
[たっぷりと間を持たせた後で返る名に、小鈴はにっこりと微笑んだ。
反芻して舌の上を転がった響きは、夏の夕方に咲く淡い色の花を思い出させる。あやかしの一人、そう続くのに、内心なるほど、と得心する。少なくとも夕顔は、見た目通りの人の子であれば、不安で泣きだしても仕方がないような齢に見えた。]
ふふふ。
かみさま、って括りにするのはね。いろいろ都合がいいんだよ。
外から来た人たちって、どこから来たのか、どのくらい滞在するのか、いつどうやって帰るのか、ほんっとにバラバラだから。
────見て、
[言って、振り返った小鈴の指が示すのは、桜の巨木の根元。
そこには、大人であれば少し身を屈めなければ通れないくらいの、朱塗りの鳥居がある。その少し奥に設けられた長方形の台の上には、菓子や食べ物、酒らしき瓶、衣類、ゲーム機らしきもの、果ては通貨らしきものまで、雑多に積み上げられている。]
(10) 2015/04/17(Fri) 00時頃