[もともと、長らく定住の地を持たない放浪の身ではあるが。
ここしばらくの間、周辺を彷徨っていたからか、『あの場所』についても知っている。
絶え間なく降り続く雨は、視覚も聴覚もひどく奪う>>8。
体力も、気力も、機敏さも。
そして、ヴェラの並はずれた嗅覚>>4さえも。全てを発揮することは叶わない]
注文が多くてすまないが、少しスピードを上げてくれ。
仲間が一匹、先走ってしまったようでな。
念のため、だ。
[揺れによる気持ちの悪さを堪えつつ、御者に呼びかけた。
ヴェラは不思議と、群れでいることを好む。
要請を受けているわけでもないのに、近くに仕事をこなす魔法使いがいれば、勝手に助力を申し出るほど。
「力になるぞ。私は強い」と。
首を掻いていた足先を、ゆっくりと荷台へと下ろしていく。
耳元の振動が離れたせいだろう。
遠くでかすかな雨音が、耳に届いたような気がした]
(10) 2013/06/09(Sun) 16時頃