[まじないに見えるでしょう? でもそうじゃァない。
強いて言うなら暗示やパントマイムの一種なんです。
空手部のあいつには、「出会った人間の顔全部が
のっぺらぼうに見えちまう暗示」を掛けたんですね。
ご存じの通り、落語ってのは一人で演じますね?
役者も衣装も道具もないのにどうするかってぇと、
足りない所は、お客さんの「想像力」で補うんですよ。
巧みな話術で、相手の想像力を掻き立てるんだ。
うまい「噺家」は、その演技もさることながら、
「言葉」で本物が目の前にあるかの如く見立てるんです。
色形、音や匂い、手触りまで、それはそれは生々しく。
だから藤之助が語り掛ける落語を聞けば聞くほど、
相手は知らぬ内に「噺」の中に引き込まれ、縛られる。
己の想像力で、幻を本物だと錯覚しちまうって訳です。
……非科学的だ? 細けぇこたぁいいんだよ!]
(8) 2016/01/17(Sun) 03時頃